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IRビジネスで日本はどう変わる?フィリピン「オカダマニラ」元社長が語る、求められるホスピタリティ、人材、東京で実現の可能性

  • Category Interview

日本でIR(統合型リゾート)推進法案、いわゆるカジノ法案が成立して8年。ついに整備計画が認定され、2030年に大阪市・夢洲(ゆめしま)にカジノやホテル、国際会議場などを併設する一大エンターテイメント施設が誕生する予定だ。一方、認定は見送りとなってしまったが同じくIR計画申請を進めていたのが長崎県。「九州長崎IR」実現を目指し、プロジェクトを牽引していたのは、フィリピンのIR「オカダマニラ」で社長を務めた大屋高志さんだ。日本で数少ないIR事業のトップの経験を持つ大屋さんに、カジノビジネスの収益モデルについて、またIRビジネスを成功させるためのカギ、国内にもたらす影響について話を聞いた。

大屋高志さん
立教大学を卒業後、みずほ証券株式会社、ドイツ証券株式会社などを経て、2018年にフィリピン最大のIR「オカダマニラ」にマネージング ディレクターとして入社。2019年、社長に就任。2022年に日本におけるIR実現に向けたKYUSHUリゾーツジャパン株式会社を設立し、代表取締役社長を務めた。

フィリピン最大のIR元社長が語る「長崎IR」の軌跡

― 大屋さんは日本のでも数少ないIR事業社でのトップの経験をお持ちです。フィリピンのIR「オカダマニラ」での経験についてぜひお聞かせください。

「オカダマニラ」はフィリピンのマニラ首都圏パラニャーケに位置する大型IR施設です。ユニバーサルエンターテイメントグループが創業し、総工費は3000億円以上でした。創業者の岡田和生さんが2016年にプレオープンしたものの、親子対立によって追放されてしまいました。、それに伴う経営強化のため2018年にマネージングディレクターとして入社しました。入社当時、ホテルなど施設はまだ半分ほどしかオープンできていない状況だったため、まずは手始めに、フード&ビバレッジ部門とファイナンス部門の担当として従事しました。

ホテル、フード&ビバレッジ、エンターテイメント、セキュリティ、建設、ファシリティマネジメント、インハウスのリテールとテナントのリーシングまで、幅広いセクションを責任者として取りまとめました。従業員8,500人を抱える組織の社長に昇格し約3年、事業に携わりました。

― そうした経験を活かして、今回「長崎IR」のプロジェクトを牽引されていたのですね。

まず、2007年より「西九州統合型リゾート研究会」が発足し、佐世保市が手を上げたんですね。その後、2014年には長崎県知事が正式にIR誘致を表明し、佐世保市、長崎県、そしてハウステンボスまで巻き込み、「皆でやるぞ!」と団結して長崎県のIRを申請することにしたのです。

ハウステンボスの一部(32ha)を購入し、そこにカジノ施設やホテル、国際会議場、ショッピングモールなどを併設したIR施設を建設するという計画で、認定を受けられれば2027年秋の開業、開業から5年で区域に673万人が訪れる見通しでした。2022年2月に着任し、3月には書類を完成。議会承認を4月に得て、そこから最終的に承認のための区域整備計画を申請しました。結果、不認定となってしまいましたが、提出した事業計画の内容には自信がありましたし、長期にわたり、とても多くの人達の後押しを受けていたプロジェクトだったので結果は受け入れがたい思いでした。

カジノ事業はすべて黒字!ケタ違いの収益モデル

― かなりの経済効果を生むと期待されるIRですが、利益率が高いビジネスモデルなのでしょうか。

カジノ収益でいうと、GGR(=Gross Gaming Profit。カジノの総粗利収益※顧客の掛け金総額から事業社が支払う賞金を引いた額)が売上の過半を占めますから、乱暴に言えばお客様が負けた金額が粗利益になるという収益モデルです。「オカダマニラ」では当時約1,000億円の売上高がありましたが、そこから人件費や各種経費といったコストを控除したものがEBITDA(税引き前に支払利息、減価償却費を加えた利益)と呼ばれる利益になります。世界を見渡せば、このGGRに占めるEBITDAの比率が30%以上という会社はたくさんありますので、利益率は高い業界といえるでしょう。

― カジノ事業を行うIRは、基本的に黒字であることが世界共通なのですね。

例えば、フィリピンには「オカダマニラ」以外にも大型のIRが3社ありましたが、すべて黒字でした。マカオにもライセンスを持つ主要プレイヤーが6社ほどありますがすべて黒字。シンガポールにも2社ありますが、両方とも大きな収益を上げています。

― 多くの金額をベッドするVIP顧客とマスのお客様の比率はどれくらいなのでしょうか。

季節や、各施設ごとで異なりますが、「オカダマニラ」では同じくらい比率でした。VIPは一人当たりの掛け金が大きく好調時の寄与も大きくなります。やはり長い目で見て売上を増やすには、VIPだけでは難しい。1回あたりの掛け金が数100ドルから数1,000ドル前後のいわゆる“プレミアムマス層”というカテゴリを増やしていくことも重要視していました。

― IRビジネスは、いかにVIPやプレミアムマス層を引き付けることができるかが重要なのでしょうか。

良いカジノがあればお客様が来る、というわけではありません。マカオでもシンガポールでもラスベガスでも、バカラはどこでもできますから。日本にバカラをしに来る人を集客するためには、カジノ以外の目的があることが重要です。すなわち、日本が得意とするホスピタリティを追求していくことです。日本はホスピタリティのメニューが非常に豊富で、かつほかの国との差別化ができます。日本の高いサービス力、おもてなし文化、フードのクオリティやエンターテイメント性、そして文化。個々にも魅力があるし、それぞれを組み合わせることで大きな観光ブランディングになると思います。

― 大屋さんが「オカダマニラ」にいたときに重視していたこととは。

お客様がフィリピンのカジノにいらっしゃる動機として、食事の質、ホテルのサービスはもちろん、現地スタッフの笑顔やフレンドリーな接客というのは大きな動機でした。接客レベルは常に高めておく必要があるので、例えば強面のセキュリティチームのスタッフにも必ず「怖い顔をせず、おもてなしの心で笑顔でサービスしてほしい」というのは常々伝えていました。

― 非カジノ部門であるIRのホテルの従業員の方々は、普通のホテルと比較して給与も高傾向にあるのでしょうか。

IR施設のサービスレベルがそのまま収益に直結するので、高いレベルの従業員が必要となります。よって、高い報酬を払ってでも質の高い従業員を確保する必要がある。コスト削減が収益に直結するわけではないというのがこのビジネスの大きなところです。

― IR施設で働くには語学力も求められる。そういった経験値がある人が必要ということですね。

語学力はもちろん重要ですが、例えば5つ星ホテルでサービスを経験していたり、VIP向けのサービスを経験していたりする人は即戦力になります。カジノで負けてしまったお客様に対してまた来ていただけるようにカジノ以外のサービスで補填することで、また来てくださる。そういった一流のサービスができる人は引く手あまたの業界です。

ブティック併設でラグジュアリーブランドも売上好調に

― カジノには多くのラグジュアリーブランドのブティックも併設していますが、やはりIR施設内のブティックの売上は高いのでしょうか。

マカオであれシンガポールであれ、IR施設の入口からカジノに行くまでの動線にはかなりの数のラグジュアリーブランドのブティックが並んでいます。大きなお金が動く=ラグジュアリーブランドが高額に見えないというのが大きな要因です。例えばカジノで勝った人は、そのお金を使ってラグジュアリーブランドを購入して、別の喜びを得る。そういったことが日常的に発生しています。ジャックポットのお客様はそのままキャッシュで持ち帰るというよりも、こういったブティックでショッピングを楽しむことも多いです。大勝ちした場合、カジノ後であればラグジュアリーブランドを購入する心理的ハードルが下がるというのも特権ですね。

― IR施設に出店したいというブランドも増えますよね。

忘れてはならないのは、ラグジュアリーブランドがあることでその施設自体の価値も高めてくれるということ。これは日本にIR施設ができる場合も必須なのではないでしょうか。

IR実現が日本にもたらす大きな影響とは

― 日本でのIR実現は、経済効果がかなり期待できますよね。日本におけるIR実現はどういった影響をもたらすのでしょうか。

まず、現在6兆円といわれるインバウンドの消費規模が大きく上がり、日本におけるインバウンドの押上効果がマクロで期待できます。さらに、インバウンドの中でも富裕層インバウンドを取り込むことができるので、日本の観光ブランディングにも寄与する。サプライサイドとしても、価値を提供できるホスピタリティサービスの引き上げ効果がかなり見込めるともいえます。

その一方で、高いサービスや価値を提供できる人材を集められるかどうかがカギとなってきます。そういった人材の青田買いや引き抜き合戦が頻発し、絶対的に人材不足に陥ることは断言できます。

― 日本に新たな雇用がうまれる機会でもあるということですね。現在、大阪でのIR実現が進められていますが、東京にIRをつくる可能性はあるのでしょうか。

東京でのIR実現は色々な意味でハードルが高いと思います。経済規模、地価も東京と大阪ではまったく違いますから、大阪・夢洲と候補地と言われた東京・お台場を比較しても、東京のほうがより膨大な投資額が必要となるでしょう。また、東京は日本の首都なので、東京都や国としても反対・慎重勢力と対峙するうえでセンシティブな対応が必要といえるでしょう。相当強い意思で各所がタッグをくんで取り込まなければなかなか実現は厳しいのではないでしょうか。

― 「長崎IR」のプロジェクトでも、まさに各所がタッグを組んで取り組んできましたよね。やはりIRを実現するには都心より地方のほうが、ポテンシャルがあるということですね。

IRは観光、そして経済の起爆剤になりますから、人口が減少し危機感を持っていているけれど素晴らしい観光資源があって、海外の人に向けたコンテンツがある場所、すなわち地方都市のほうが実現の可能性は高いかもしれません。ぜひ、大阪のIRが順調に開業することで、さまざまな問題をクリアし、日本のほかの都市にもIRをつくろうという動きになってほしいです。日本のホスピタリティを武器に、地域や施設ブランディングをして大阪の価値が上がった、という結果を持ってほかの地方都市にも広がっていけば本望です。

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